ホーム > WEBマガジン > 【技術レポート】フッ素ゴムの自動車内装への展開

Fluoroelastomer for automotive interior

Print

技術レポート

06/2022

フッ素ゴムの自動車内装への展開

坂井彩 

塩見啓介

ダイキン工業株式会社

化学事業部

本稿はマテリアルステージ誌2021年3月号に「様々な特性を有するフッ素ゴムとその自動車内装への展開について」として掲載された内容を要約したものです。全文は「PDFダウンロード」よりご確認いただけます。

1. 自動車市場のニーズ変化

近年、自動車業界は「100年に一度の大変革期」にあるとされ、「CASE」や「MaaS」といったメガトレンドが従来のクルマのあり方を大きく変えようとしている。例えば、CASEの一角を占めるシェアリングに注目すると、同じクルマを不特定多数の人物が利用・共有するサービスや機会が増加している。そのような利用シーンにおいて、内装部材の防汚性と意匠性を実現する新素材を求める声は少なくない。


フッ素ゴムは、ウェアラブルデバイスなどの民生分野で新素材として注目され、需要が拡大している素材である。本稿では、自動車内装材へのニーズ変化に対応する素材として、フッ素ゴムを紹介する。

2. 自動車内装材のニーズに合ったフッ素ゴムの特長

従来、主として工業用品として使用されてきたフッ素ゴムだが、自動車内装材としての新たなニーズを満たす観点で見直すと、次のような特性が挙げられる。


2-1. 耐久性、耐薬品性
フッ素ゴムは、長期間様々な環境で使用しても、見た目や質感に変化が生じにくい。また、消毒液などの薬品による物性の変化も少なく、ゴム素材で懸念される加水分解による突然の切れ・変色・べたつき等が起こりにくく、触感の良さが持続し快適に使用し続けることができる。


2-2. 低着香性
日常で使用することを想定し、におい移りへの耐性を調べるために、フッ素ゴムとシリコンゴムの着香性の違いを試験した。その結果、フッ素ゴムとシリコンゴムでは臭気濃度は10倍以上の違いとなり、フッ素ゴムはほとんどにおいがせず、シリコンゴムにはにおいが移ってしまうことが確認された。フッ素ゴムであればゴム特有のにおい移りという課題を解決することができる。


2-3. 触り心地

フッ素ゴムは、鏡面、梨地など金型のシボを変えた成型を行うことで、添加剤を使うことなく様々な感触を発現する。人が触れて気持ち良いと感じ、ゴムらしからぬ触感で高級感を演出することができる。また、外部からの影響に左右されることなく、しなやかな肌触りが持続する。


2-4. 抗菌・防カビ配合

カーシェアリングの増加による抗菌・抗ウイルスへのニーズの高まりを想定し、フッ素ゴムに抗菌・防カビ剤を配合して性能の確認を行った。その結果、加工性や一般的なゴムの物性を損なうことなく、フッ素ゴムに抗菌・防カビ作用を付与できることが分かった。


2-5. 調色配合

フッ素ゴムは、調色することでクリアで鮮やかな色からシックな色まで、種々のカラーを発現させることが可能である。様々なカラーは視覚に訴求し、多様な商品展開が可能になる。

図1 調色したフッ素ゴム

daiel_magazine_J_pic6_1.jpg

豊富なカラーバリエーション2.jpg

3. 自動車内装材への用途展開

これまでフッ素ゴムは、自動車の内燃機関周辺のような「目に見えない」分野での使用が、その需要の大部分を占めてきた。しかし、ウェアラブルデバイスといった新分野では、その高比重に起因する独特の触感が「ゴム=安物」という固定観念を覆し、高級感を演出する新素材として支持されている面がある。現に当社では、自動車関係での問い合わせの増加という形で自動車内装におけるフッ素ゴムのニーズの高まりを認識している。


そこで、自動車内装への適用の具体的イメージを提供し、また直接握ってもらうことでフッ素ゴムの特徴をより直感的に理解いただくことを目的として、ハンドルカバーの試作品を製作した。

図2 カラーフッ素ゴム製ハンドルカバー試作品(オレンジと赤色部がフッ素ゴム)

フッ素ゴム製ハンドルカバー試作品

ハンドルカバーは自動車内装の中でも最も操縦者の手が触れる箇所であり、運転席における視界に占める割合という点でもインパクトが大きく、市場からのフッ素ゴム適用を期待する声が最も大きい内装部材である。対象市場は新車だけでなく、防汚性や意匠性のニーズの高い、シェアリング用のカスタムパーツやアフターパーツとしての展開も考えられる。


当社は今後も、自動車内装分野においてますます高まる防汚、衛生、意匠面でのニーズに対して、豊富なカラーバリエーションに対応できるフッ素ゴムを活用したソリューションを提供すべく、技術開発、品質改善、安定供給に努める所存である。

注:当製品は工業製品として開発されたもので、医療用途、食品用途に開発されたものではない。また、フッ素ゴムで腕時計型のウェアラブル等の人体接触する用途に使用される場合は、その生体適合性を確認する必要がある。


*本稿はマテリアルステージ誌2021年3月号に「様々な特性を有するフッ素ゴムとその自動車内装への展開について」として掲載された内容を要約したものです。全文は「PDFダウンロード」よりご確認いただけます。

関連製品

Fluoroelastomers

フッ素ゴム

当社の強み
・フッ素ポリマーの設計・重合技術を活かした豊富な品揃え(ポリマー組成×架橋系):特に、パーオキサイド架橋とポリオール架橋が得意
・テクニカルサービス:評価・分析、加工指導などでユーザーサポート充実

主な機能:耐熱性、耐薬品性、耐油性、耐酸性、高温での圧縮永久歪み性